インポスター症候群をカウンセリングで克服する方法

インポスター症候群をカウンセリングで克服する方法

「社会人になってからプライベートの時間も惜しんで仕事を頑張ってきたが、少しも安心できない。いつまで経っても精神的に楽になった感じがしない。」
「大きな仕事ができるチャンスがあっても尻込みしてしまい、チャンスを逃してしまう。」
「大きな仕事を達成して一瞬は安心するが、安心感が続かず、自信につながらない。」
と思っている方に向けて、インポスター症候群とその克服方法としてのカウンセリングについて臨床心理士・公認心理師が説明します。

インポスター症候群とは

以前の記事でも書きましたが、働く人のカウンセリングをしていると、成功しているビジネスパーソンの中にも、いくら成功しても自分に自信が持てない人が大勢いることがわかります。
彼らのことをあらわす「インポスター症候群インポスター現象」という言葉があります。

インポスター症候群」がはじめて明らかになったのは、30〜40年前、アメリカの心理学者ポーリーン・クランス博士たちが「成功しているのに自信を持てない人」についての研究や書籍を発表したことに始まります。博士たちは、成功しているのに自分に自信が持てずにいることを「インポスター現象」と呼びました。(クランス博士自身も、同じような気持ちになったことがあると言います。)

インポスター症候群の特徴は、以下のようなものです。

・仕事や課題に取り組むとき、「上手くできないのでは」「失敗するのでは」と心配する
・周りの人は実際の自分以上に、自分のことを有能だと買いかぶっていると思う
・人から評価されることが怖い
・自分がしたことをほめられたり認められたりしても、次からは期待に答えられないのではと不安になる
・仕事などを達成しても、自分に能力があるからではなく、たまたまである、と考える
・本当は自分に能力がないということを他の人が知ってしまうのではと怖くなる
・達成したことや成功したことが何かの間違いじゃないかと不安になる
・他の人からのほめ言葉を素直に受け入れられない
・自分が達成したことを「たいしたことない」と自分で評価する
・自分と周りをよく比較して、周囲の方が優れていると思う

常に周りを欺いているような気がする、という状態のため、インポスター(=詐欺師)症候群と呼ぶのです。

なぜインポスター症候群になるのか

クランス博士によると、インポスター症候群を抱える人の背景には以下の特徴がみられるといいます。

・小さい頃に家族から受け取るメッセージと、世の中から受け取るメッセージが違う
・小さな頃から、優秀であるかどうかで評価される、というメッセージを受け取っている
・家族の中で自分が異質であり、他の家族のメンバーとはどこか違っていて、それが違和感をもって感じられる
・適切な褒め言葉がない、認められない

つまり、「ありのままでいることは安心ではない」「ありのままでいては認められない」というメッセージを幼い時期から受け取っていて、ありのままで安心していられる、という体験をしていないことがインポスターを生じさせるのでは、というのです。
言いかえれば、自分をさらけ出しても大丈夫だった、という経験が少なかったり、本心を見せて傷ついた大きな経験や、繰り返される経験があった。または小さい頃、世界のルールを学び始めた頃に、ありのままでいることでなんらかの不都合があった。つまり、自分を偽ったり本心を隠したりした方がこの世界を生きるには安全だ、と学んだ。こどもがこどもでいることを許されず、仮面をかぶって何らかの期待に沿った役割をとった方が安全だ、と学んだ。自分の「素」のままでいることは危険で、仮面をかぶった振る舞いの方が周囲から認められた、ということが繰り返し起こった結果、インポスターでいることを学んだのではないか、ということです。

このあたりは、アダルト・チルドレンの概念に似ています。
アダルト・チルドレンとは、子ども時代を純真無垢な子どもとして生きられず、まるで大人のように空気を読み、気をつかい、大人のように振舞わなければならなかった人たちを指します。そして、大人になってからも何かが足りない感覚、今の自分ではダメなのではないかという不安を抱えながら過ごしています。

インポスター症候群とアダルト・チルドレン、どちらも傷つきと、自分の感情が置いてきぼりになった感じ、本当に感じていたつらさを、合理的な考えや受け入れられそうな感情や行動でマスクしてしまい、大人になっても生きづらさを感じている、というところが共通しています。

インポスター症候群は特殊な人の問題ではない

FacebookのCOOシェリル・サンドバーグは、ベストセラーとなった著書『LEAN IN』の中で自分もインポスター症候群である、と言っています。
映画『レオン』や『スター・ウォーズ』に出演している女優のナタリー・ポートマン(ハーバード大卒)や、スターバックスの元CEOハワード・シュルツも「自分がここにいるのがふさわしくない」という感覚があるとスピーチで語っています。

インポスター症候群は女性によく見られる、という説もありますが、インポスター症候群(インポスター現象)についての今までの研究や文献を調査した統合的な研究(系統的レビュー)によると、性差については約半分の研究で女性の方が男性よりもインポスターを経験しているという結果が出ていますが、残りの半数の研究では性差はない、としています。女性だけに起こることではなく、多くの男性にも見られる状態ということがわかります。
同じ研究によると、インポスター症候群がみられる割合は、研究によって9〜82%と大きく開きがあり、どのくらいの人が感じているかは明確になっていませんが、世界中の多くの人が(たとえ有名人であっても)、こころの中にインポスターの不安や苦しみをひそかに抱えていることは確かです。同じつらさを抱えている人は、見えないだけで世の中にはたくさんいるのです。

インポスター症候群のカウンセリングの実際

もちろん個人の状況に応じて一律ではありませんが、インポスター症候群のカウンセリングについては、EASE Mental Managementでは以下のような方法でおこないます。

インポスターのつらさを実感する場面で、いったい何が起こっているのかを、カウンセラーと一緒にゆっくりと見ていきます。身体に起こることや湧いてくるイメージなどにゆっくりと気づいて、カウンセラーと一緒に確かめながら、起こってくる感情や、身体の感覚を感じ、またつらさを和らげてくれるものを探索したりします。また、起こっている身体の感覚や気持ちが少しずつ変化していくことを体験したり、昔はできなかったけれども今だったらできることに気づき、それを一緒にやってみたりします。
かつては自分1人で試行錯誤していたインポスターの状況を、カウンセラーと2人で、安全な環境を保ちながら、つらかったときには起こらなかったけれども今なら起こせる変化に気づき、ゆっくりと、実感しながら、起こらなかった変化を起こしていきます。
インポスターによって何を守ってきたのか、その大切にしているものを一緒に見つけにいき、隠すのではなく癒すことでインポスターを解消するのが、インポスター症候群のカウンセリングの基本的な作業です。

インポスターの不安が徐々になくなっていくと、不安感なしに新しいことにチャレンジできたり、適切な自己主張ができるようになったり、毎日のように感じていた焦燥感を感じなくなったりします。自分を信じられる感覚、今このときに落ち着いていられる感覚、といったかつては考えられなかった穏やかな感覚が戻ってきたりします。もちろん、急には感じられません。徐々に徐々にです。しかし、穏やかな気持ちが戻ってくるのは、なにものにも替えがたい体験です。

EASE Mental Management のカウンセリング、コーチング、心理療法、インポスター症候群へのカウンセリングが気になる方は、こちらからご連絡ください。

<もっとインポスター症候群についてのコラムを読みたい方はこちら>
インポスター症候群の原因や対策は?改善する方法は?

<参考文献>
・クランス博士のサイト https://www.paulineroseclance.com/impostor_phenomenon.html
・ポリーヌ・R・クランス(1988)インポスター現象. 筑摩書房.
・シェリル・サンドバーグ(2013)LEAN IN 女性、仕事、リーダーへの意欲. 日本経済新聞出版社.
・ハーバード・ビジネス・レビュー編集部 編(2020)自信. ダイヤモンド社.
・Bravata DM, et al.  Predictors, and Treatment of Impostor Syndrome: a Systematic Review. J Gen Intern Med. 2020 Apr;35(4):1252-1275.