仕事のやる気が出ないのはバーンアウト(燃え尽き症候群)かもしれない

仕事のやる気が出ないのはバーンアウト(燃え尽き症候群)かもしれない

仕事のやる気が出ないのは「バーンアウト」かもしれない

仕事に意欲的に取り組んでいた人が、急に仕事に興味が持てなくなったり、今までの努力は無駄だったと思うようになったり、あんなに熱意を持っていた仕事にすっかり意欲が湧かなくなったりすることがあります。
「うつ」かな?と思ってみるものの、仕事以外のことは楽しめたり、食事や睡眠などの基本的な生活はいつも通りで、ただ仕事にだけ意欲や気力がわかないだけ。いったい自分はどうしてしまったんだろう、と悩んで相談に来られる方、実は少なくありません。

バーンアウトとは

バーンアウトは日本語で「燃え尽き症候群」ともいいます。バーンアウトとは、心身ともにエネルギーを使い果たして疲れ切った状態のことを指し、仕事に打ち込めず、仕事に価値を見出せなくなったりすることがみられます。

バーンアウトを測るテストを作ったアメリカの社会心理学者マスラック(Maslash)らは、バーンアウトの要素を3つ挙げました。

情緒的消耗感(exhaustion)…疲労感、精神的なエネルギーを使い尽くして疲れ果ててしまった感覚
脱人格化(cynicism)…皮肉的な態度や言葉、自分が接する相手や周りの人に思いやりが持てず人や仕事から距離をとったり、ネガティブな目で見たりする
無効力感、達成感の低下(inefficacy)…仕事への達成感や自信、仕事で役に立っている感じが持てなくなる

さらにその後の研究で、オランダの産業・組織心理学者のシャウフェリ(Schaufeli)らは、以下の4つをバーンアウトの中核的な特徴としました。

①精神的、身体的に疲れ果ててしまったという「疲労感
②仕事に打ち込めない、仕事を嫌だと感じる、役に立っていると思えない、といった「仕事との精神的な距離感
③仕事に集中できない、といった「認知的な不調
④仕事中に感情がコントロールできなくなる「情緒的な不調

疲れていて、仕事がうまく進まず、仕事や周りの人との距離を感じたり、自分に対してもネガティブな思いを抱いてしまう。そんな状態がバーンアウトだと言えます。

バーンアウトにつながる兆候とは?

なぜバーンアウトになったのか、その背景を見ていくと、バーンアウトを引き起こしやすい要因が見えてきます。

●業務量の多さ

バーンアウト状態になった人に話を聞くと、ほとんどの人が背景に「忙しさ」を訴えます。

業務の繁忙期があった、たまたま仕事が重なって忙しくなってしまった、部署異動や新しい仕事に取り組むようになり覚えることが増えた、昇進・昇格で役割が増えた、人が減ってしまい自分の仕事が増えた、プライベートでの引越しや結婚・出産、介護などが重なった、など、普段よりも仕事量・活動量の負荷がかかっている場合がほとんどです。

取り組んでいる時はハイになり、疲れを感じなかったりするものの、ひと段落ついたときに気力がカラになっているのを感じ、再び頑張る気力が湧いてこない、ということはよく起こります。

●コントロールできない、しにくい状況に置かれる

忙しさも、自分で望んだときや、状況をコントロールできる自由度が高いときには、負荷になりにくいものです。
たとえば「今は苦しいけれど◯◯日からは休みを取ろう」「この仕事はあとまわしにしてもらおう」などとスケジュールをコントロールできるとき、嫌な仕事は断ったり誰かに移譲したりできるとき、など自分の意思で状況をコントロールできることを「自由度が高い」と言いますが、自由度が高ければ負担感は軽減されやすいものです。

しかし多くの場合、つらくなるのは締め切りが迫っているとか、誰かの世話をしなくてはならないとか、仕事で人の間の調整をしなくてはならないとか、自分よりも他のことを優先しなければならないなど、自分の意思ではどうにもならないことがあるときにつらくなりますよね。
自由度が低い状況、というのもバーンアウトのリスクの一つです。

●努力や労力に見合ったリターンがない

「つらかったけれど、こんなに賞与がもらえた!」とか、相手から感謝してもらえて「あなたのおかげでここまで来れました」と言ってもらえた、など物質的か・心理的かを問わず、自分の頑張りや労力に対して報酬をもらえるのは嬉しいものです。
報酬は疲弊したこころに補充されるエネルギーのようなものです。
頑張ったのにありがとうと言ってもらえない、誰にも気づいてもらえない、認めてもらえない、約束されていたはずの報酬が得られない、など、頑張りに見合ったリターンが十分に得られなければ、つまりエネルギーが充填されなければ、意欲やモチベーションが湧かないのも自然なことです。

●サポートが少ない

自分もつらいけれど他の人も同じつらさを抱えているのがわかったり、「大変だよね。もう少し、一緒に乗り越えようね。」と言い合えたり、ときには愚痴を言って「そうだよね」「あなたは十分やっているよ」と理解してもらえたり。
作業自体をサポートしてもらえることももちろん負担が軽くなりますが、「自分一人ではない」「乗り越えるために誰かのサポートがある」という思いも負担を軽くしてくれます。

誰にも自分の状況や気持ちを言うことができず、自分一人で抱えている状況、というのもバーンアウトのリスクの一つです。

バーンアウトになったらどう回復する?

それでは、自分がバーンアウトになってしまった、と気づいたらどのように回復すれば良いのでしょうか。

●休む、またはペースを落とし、エネルギーを蓄える

バーンアウトの背景にあるのは、精神的または肉体的な疲労です。頑張り続け、走り続けて疲れ切ってしまった状態なので、休めるなら一旦休んだり、仕事を調整したり(または調整を依頼したり)、他の人にサポートを頼んだりして活動のペースを落とすことをまず考えてみてください。

おそらくあなたはバーンアウトに至るまでの中で、周囲の誰かの都合など、自分ではどうにもならないことに振り回されてきたのではないでしょうか。自分を回復させるためには、自分が自由に自分の活動を決める、自分が自分の自由を取り戻す、コントロール権を自分が取り戻す、ということも大事なポイントです。

そして、エネルギーを蓄えるために、精神的または肉体的な充足が得られるようなことをすると良いでしょう。
たとえば趣味のことをする、自分を認めてくれる人と話す、マッサージやお風呂や温泉、サウナやヨガなどの自分の体が喜ぶことをする、歌ったり踊ったり運動したり自分が自分らしくいられることをする、思いっきり寝たりダラダラ過ごす日を作る、などあなたのこころが楽になることであれば何でも構いません。
自分が今までにやって楽しかったもの、好きなものを思い出し、少ないエネルギーでできるものから試してみるとよいと思います。

●原点に立ち戻る

この仕事を始めた理由は何だったか、初めは何を求めてこの仕事に就いたか、当初考えていたことは何だったか。
つらいとき、私たちはどうしても目の前のことが全てになりがちで、長い人生の時間軸の中で今がある、ということを忘れがちです。
仕事を始める前の自分を思い出してみたときに、もしかすると昔望んでいたことは既に達成していてエクストラのことで悩んでいるかもしれませんし、自分が大切にしたいものは別の方法で得られる道もあることに気づくかもしれません。大事なものを明確にしたり、人生の優先順位を明確にしてみると、もしかすると余分なことをやり過ぎていることに気づくかもしれません。

バーンアウトの反対の状態を表す言葉に「ワーク・エンゲイジメント」という言葉があります。
ワーク・エンゲイジメントは、仕事に対する熱意、仕事への没頭、仕事から活力を得ている、という3つの状態を備えた状態を指します。
ワーク・エンゲイジメントが高い人は、自分の関心・興味・やりがいに基づいて仕事をしているとされています。

広い目、長い目で見て、自分が仕事や人生で得たいものは何だったのか、一旦落ち着いて整理してみるのもひとつです。

●助けを求める、話してみる

看護師などの医療・福祉職、カスタマー・サポートなどのサービス職や警察官、消防士、教師など、カウンセラーも含めた対人援助職はバーンアウトになりやすいことが知られています。
「人」を相手にする職業の方は「相手の役に立ちたい」気持ちの強さに対して、かけた労力の分だけ1:1で結果が返ってくるわけではない、またときには力を尽くしても返ってくる結果がネガティブなものだったりする、ということもよく起こり、バーンアウトへのつながりやすさを潜在的に抱えています。
そのため(だけではありませんが)、対人援助職はスーパーバイザーと呼ばれる指導職をつけたり、チームで動くことを重視し、自分一人で仕事の重責を抱え込まないことが重視されています。
多くの働く人たちは仕事上で人との調整が発生しますし、人を相手にする職業だけでなく、どんな仕事でもバーンアウトは起こり得るものです。

多くのバーンアウトは、サポートが少ない中で起こります。話しても無駄だと思わず、とにかく繋がれる人とつながってみてください。気持ちを理解してくれて楽になる場合も、現実的な解決策を提案してもらえる場合もあるでしょう。お勧めは、あなたのことを否定しない人と話をしてみることです。
誰に相談したらいいかわからない場合は、もちろんカウンセラーを使うことも可能です。気軽につながってみてください。

さいごに

ペースを落として好きなことをしたり、自分の思いを整理してみたり、誰かに話してみたけれどもなかなか回復しない場合、ゆううつな気分が続いたり、何に対しても興味が湧かない、眠れなかったり寝過ぎたりする、自分を責めたり、頭がうまく働かない、といったことが続いている場合は、医療機関で相談する方がいい場合もあります。
どこに相談したら良いかわからない場合は、臨床心理士などのカウンセラーが一緒に解決方法を考えることができます。

EASE Mental Managementのカウンセリングはこちらから↓

<参考文献>
久保真人(2004)『バーンアウトの心理学』サイエンス社
Schaufeli, W.B., De Witte, H. & Desart, S. (2020). Manual Burnout Assessment Tool (BAT) – Version 2.0.
ジェニファー・モス「職場で従業員のバーンアウトに対処する方法」ハーバード・ビジネス・レビュー 2021年7月号 ダイヤモンド社
島津明人(2015)『ワーク・エンゲイジメント』ダイヤモンド社