リモートワークとメンタルヘルス不調

リモートワークとメンタルヘルス不調

リモートワークによってストレスは軽減したか?

2020年3月、コロナウイルスのパンデミックにより私たちの生活が大きく変化しました。働き方の大きな変化としては、リモートワークで働く人が大幅に増えた、ということが挙げられます。

もちろん、対面や出勤で勤務せざるを得ないエッセンシャルワーカーの方も多く、彼らのストレスが高いことは着目すべき点です。
しかし、働く人のカウンセリングの中で見えてくるのは、じわじわと気づかぬ間に浸透してくる、リモートワークゆえのストレスやメンタルヘルスへの悪影響についてです。

リモートワーク」はもともと働き方改革のひとつの柱「テレワークの推進」として、ポジティブな結果をもたらすものと考えられてきました。実際、満員電車に乗る必要がなくなったこと、通勤時間が減り自由に使える時間が増えたこと、オフィスから離れた場所でも仕事ができるようになったこと、人間関係の気づかいから解放されたこと、人によっては職場よりも自分に合った作業環境を用意することができたこと、などプラスの側面もあげられます。

しかし、一方であまり想定されていなかったネガティブな訴えも多く聞かれます。
通勤がなくなったため、家から外に出る機会が減り、運動する機会が減った人。
運動の機会は減ったのに食べ物にはアクセスしやすい環境にあるため、つい食べ過ぎてしまい体重が増加した人。
職場で顔を合わせたときに雑談をすることで同僚の様子を確認したり、息抜きをしたりしていたのに、それがなくなり何となく気持ちや考えを発散する機会が持てず、鬱々としている人。
リモート環境で仕事環境とプライベートの場所の切り替えがなく、気持ちも切り替えにくいため、何となく仕事のモチベーションが上がらない・保てない人。
仕事が際限なく出来てしまうため、時間外にもつい仕事をしてしまい、十分な休息の時間が取れておらず、疲労が溜まっている人。
どれも一部の人が言っているのではなく、2020年3月以降、沢山の働く人が上記のことを訴えています。

そして怖いのは、これらはメンタル不調を感じている人たちからよく聞く訴えにもかかわらず、こういった変化がメンタル不調につながっているとは認識されにくく、じわりじわりとメンタルに影響を与えていることです。
コロナ禍以前から「とくにきっかけは思いつかないが、最近やる気が出ない、気分が沈む、眠りにくい」という相談はありましたが、コロナ禍以降、そして最近は非常に多くなったと感じます。始まりの時期も、きっかけも明確でない、いつの間にか始まっていたメンタル不調は、いつの間にかQOL(生活の質)にも影響を与え、改善の方法をとるタイミングを見失ったまま辛い状態が続いてしまうことになりかねません。

COVID-19とメンタルヘルスに関する研究

コロナ禍での外出禁止とソーシャルディスタンスの一般の人々への心理的な影響に関して、2021年6月に発表された、複数の研究をまとめた研究(システマティックレビュー論文)があります。この論文によると、調査対象の一般の人の14.6〜46.4%にうつの症状が見られ(81.9〜85.9%とする研究も!)、8.3%〜45.1%に不安の症状が見られ、ストレスとPTSDに関連した症状は8.1〜49.6%に見られた(81.8%とする研究も!)と報告されています。
少ない研究では約7人に1人、多い研究では5人中4人にうつの症状が見られていたということになります。これはやはり多い数字で、パンデミック以前の調査では、日本で一生のうちに一度はうつ病になる人の割合(生涯有病率)は5.7%(約17人に1人)でしたので、この環境の変化はやはり私たちのメンタルに大きな影響を与えたと言わざるを得ませんし、メンタルの不調を想像以上に多くの人が感じている、ということを読み取れるのではと思います。

メンタルの調子がすぐれないときは

最近(ここ2週間)、落ち込んだ気分や仕事への集中できなさ、何事に対してもモチベーションが上がらない、といった状態が続いているときは、遠慮なく病院を受診しましょう。早めの受診は早めの回復につながりますので、後回しにせず病院に行くことも必要です。
そこまでではないけれども何となく調子の上がらない状態が続いている、というときは、以下の方法を試すことができます。

・調子を点数で表してみよう

いま、この瞬間の体や心の調子(快適さや気分の良さ)を0〜100点の点数で表してみると、1日の中でも変動があることに気づくかもしれません。例えば、仕事をしているときは点数が低くて30点くらいだけれど、夜は点数が高くなって60点くらいだ、とか、その逆もあるかもしれません。また、外に出ているときや買い物をしているときは点数が高いけれど、ひとりで家にいるといろいろネガティブなことを考えてしまって点数が低くなる、など、何かしらの傾向が見えてくる可能性があります。
もし、点数が高くなる活動に気づいたら、なるべくその活動を積極的におこなうようにしましょう
そして、一日中気分が上がらない、何をしても低い点数のまま、ということに気づいたら、やはり医療機関を受診しましょう。

・午前中に30分ほど外の光を浴びよう

うつ病に対して、強い光を浴びる治療法(高照度光療法)は有効とされています。また、太陽の光は1日のサイクルを整え、質の良い睡眠をとる上でも有効です。
しかしながら、リモートワークをする人の話を聞くと、朝起きてから日の光を浴びることなく仕事に入り、食事などを買いに行くのは日が沈む夕方ごろ、もしくは外出も週に2〜3回、という人も珍しくないのです。これでは圧倒的に日光が足りていません。家庭用の室内灯では、どんなに明るくしても日中の外の光には及ばないのです。
日の光を取り入れるために、仕事前に少し買い物をしてから仕事を始めたり、難しければ昼食の休憩のときには散歩を取り入れたり、朝起きてから仕事を始める前に窓際やベランダなどで日の光を十分に浴びる、もしくはリモートワークのデスクを窓際に移す、など、なるべく1日の早い時間に日光を取り入れてみることをお勧めします。外を歩くと、運動にもなっていいですね。

・「調子が優れない自分」にも許可を与えよう

働く人たちは、頑張ることによって自分を肯定しがちです。多くの人が、頑張れていない自分はだめで、何も生み出せていないことはよくないことだと考えがちなようです。頑張ったこと、成果をあげたことが評価につながる中で仕事をしていれば、そう考えるのも仕方がないことでしょう。「調子が良くない」自分を肯定したら、甘えたりサボったりしても平気になり、堕落してしまうのではないか、と心配する人もいます。

調子が良い、と感じることがあれば、調子が優れないこともあるのが自然です。上記に挙げたように、世界的に見てもメンタルの調子が優れない人が、いまは多い時期なのです。
例えば、自分の大好きな人、大切な人がいつもと比べて元気がないように見えたら、どのように接しますか?
もしくは、高度1万メートル上空、飛行機の窓からいま、地上で働いている自分を見ているとしましょう(実際は見えませんが、そのくらい高いところから見おろしている、というイメージです)。元気のない自分に何と言ってあげますか?
あるいは、数十年後の未来、既に退職したあなたがタイムマシンで現在の自分を見にきて、今の自分が調子が悪そうにしているのを見たとします。数十年後の自分だったら何と思うと思いますか?
そのように考えて、思いつくセリフを自分に投げかけてみるのもいいでしょう。

調子が優れない自分を頑張れない自分、だめな自分、と評価してしまうとつらくなりますが、「調子が優れない自分に許可をあげよう」と考えてみると苦しさも少し軽減するのではないでしょうか。

・睡眠をとろう

十分な睡眠が取れないことはうつや不安といったメンタル不調を引き起こし、またメンタル不調になることでも十分な睡眠が取れなくなります。十分な睡眠が取れていないことに気づいたら、可能な限り眠りましょう。
物理的に眠る時間が取れないというとき、多くの場合は「人手の不足」が原因にあるようです。仕事では上司、同僚、関係者、仕事以外では家族、友人、専門家、行政など、思いついた人にぜひ助けを求めてください。
もしかすると、自分の範囲以上にやることを引き受けすぎていないか、自分に問いかけてみることも助けになるかもしれません。
眠ろうとしても眠れないとき、眠れないことが続いているとき、もしくは起きられずに困っているなど、睡眠をとろうとしてもうまくとれない場合は、医療機関に相談してください。

・人と話をしよう

リモートワークになって少なくなったものの一つに「雑談」があります。「仕事のミーティングではたくさん喋っているよ」という方も多いのですが、仕事での会話と、素の自分での自由な会話は、全く違います。
雑談したり、愚痴を言ったり、感情のままに笑ったり怒ったり嘆いたりする機会が、圧倒的に少ないのです。
自由に話せる場をぜひ持ってみてください。それだけで楽になったという方もたくさんいます。

さいごに

リモートワーク下で不調をうったえるひとはとても増えています。
午前中に外を歩く睡眠をとる人と話す、調子を点数で表して点数が高くなる活動をする自分に許可を与える、などの対策をとり、回復が難しそうであれば、迷わず医療機関を受診しましょう。

EASE Mental Managementは医療機関ではないため薬の処方はできませんが、話すことで自分の状態を整理したり対策を考えたいときにお役に立てます。

EASE Mental Managementのカウンセリングはこちらから↓


<参考・引用文献>
1)Rodríguez-Fernández P, González-Santos J, Santamaría-Peláez M, Soto-Cámara R, Sánchez-González E, González-Bernal JJ. Psychological Effects of Home Confinement and Social Distancing Derived from COVID-19 in the General Population—A Systematic Review. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2021; 18(12):6528.
2)精神疾患の有病率等に関する大規模疫学調査研究: 世界精神保健日本調査セカンド(WMHJ2) http://wmhj2.jp/WMHJ2-2016R.pdf
3)日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅱ.うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害 2016 https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/160731.pdf
4)Penders TM, Stanciu CN, Schoemann AM, Ninan PT, Bloch R, Saeed SA. Bright Light Therapy as Augmentation of Pharmacotherapy for Treatment of Depression: A Systematic Review and Meta-Analysis. Prim Care Companion CNS Disord. 2016 Oct 20;18(5).
5)Alvaro PK, Roberts RM, Harris JK. A Systematic Review Assessing Bidirectionality between Sleep Disturbances, Anxiety, and Depression. Sleep. 2013;36(7):1059-1068.