「また怒ってる…」の謎を解く
弊室には、「夫婦仲を改善したい」「妻との関係を改善したい」「妻の機嫌が悪い。妻からは自分(夫)のせいだと言われ、何をしても怒られるが、どうしたらいいか」という男性からの夫婦仲に関する相談もとても多く寄せられます。
今回のコラムでは、なぜ夫婦はすれ違ってしまうのか、そして夫の立場からどのように関係を修復していくことが可能なのか、夫婦仲を改善するための極意について解説します。
家事・育児を増やせば妻の機嫌はなおるのか
よく見られるパターンとしては、結婚や出産をきっかけに夫婦仲が悪化するケースや、仕事が多忙な夫に対してイライラがつのる妻、という状況もよく見られます。
初めは些細なコミュニケーションのズレが、長年の間に積もりに積もって何をしても怒られたり、無視をされたりするようになる…というのはよく聞くパターンです。
背景を見ていくと、妻の機嫌が悪くなる発端は、「仕事ばかりで家事や育児に時間を割いてくれない」など、日常生活での不満について最初に表出することが多いようです。
結婚や出産に伴い、共同作業であるはずの家事育児に関して、妻の負担が高く、不平等であることに怒っている妻が多いことは事実です。
この場合は分担の見直しや負担の明確化など、現実的な対策が有効な場合もあるでしょう。
平等な家事・育児の負担によって、妻の機嫌が回復する夫婦関係ももちろんあります。
しかし、夫が「じゃあ掃除や料理、子供の世話など、家事をもっとすればいいんだな」と可能な限り家事育児を増やしたとします。
それでも妻の機嫌がなおらないことも多くあります。
これは一体なぜなのでしょう?
「妻は怒ってばかりいる」「何をしても怒られる」の背景にあるもの
肝心なことを夫側が理解していない場合、考え得る行動をどれだけ取ってみても妻の怒りはおさまりません。
それは、妻の怒りは 「私のことを大事だと思ってほしい」「あなたが私のことを大事に思っていると確認したい」という妻からのSOSだということです。
「私(妻)」あるいは「私との生活」「私と家族も含めたこの家庭」という場合もあるでしょう。
つまり、どれだけ妻を大切に思っているか、その気持ちが伝わっていないよ、という訴えが怒りとなって出てきている場合が多いのです。
怒りの背景に、「家事や育児のことを真剣に考えてくれないのは私との生活が大切だと思っていないんでしょ!」「私が大事なら、もっと時間を割いて、話し合ってくれるはず。それをしないということは私のことを大切だと思っていないんでしょ!」という「もっと私のことを考えてほしい」「私を大事にしてほしい」というニーズがあるということを理解していない夫、つまり「重要なパートナーである夫からの愛情や関心をもっと感じたい」という妻のニーズがあることを理解できない夫は、いつまで経っても怒られ続けることになりかねないのです。
「妻は怒ってばかりいる」「何をしても怒られる」のメカニズムと悪循環
夫としては、「大切だと思ってるよ!だから仕事も頑張っているし家事育児もするようにしているんだけれど…」と言いたくなりますが、妻にとって重要なのは、夫は「妻のことを大切に思っている」のだ、という「気持ち」が実感できることなので、どれだけ労力をかけたのか、が大事なのではありません。
「夫が私のことを大切だと思っているんだ」と感じて安心したい、という妻のニーズが満たされないと、いつまで経っても労力だけ増えて疲弊することになりかねません。
そして、いつまで経っても夫が上記のような妻のニーズに気づかず、的外れな行動を繰り返していると、妻の怒りは慢性的になります。
「何をやっても怒られる」「何をしても機嫌が悪い」という状態です。
「夫は私を大切にしてくれない人なんだ」というある種の信念のようなものが妻の中に出来上がると、夫を「助けてほしいときに助けてくれない酷い人」と感じるようになり、警戒して接するようになります。
そして、その様子を察した夫は妻に恐々接するようになります。その様子を見て、夫は歩み寄ってくれないのだと感じた妻の怒りは益々増してしまい、2人の関係はなかなか改善しないのです。
ニーズを満たす鍵になる行動とは
それでは、「妻のことを大切に思っている」ことはどうやったら妻に伝わるのでしょうか。
最も直接的なのは「言葉」です。
そして、この言葉が多くの男性が苦手としている部分だと思います。
夫側の話を伺っていくと、「妻が幸せでいてくれること、妻が笑って自分のそばにいてくれることが、自分にとっても幸せなんだ」という夫側のニーズが多いことに気がつきます。
多くのご夫婦では、ちゃんと夫は妻を大切だと感じているのです。
しかし、重要だと思っているにもかかわらず、それが伝わらずに喧嘩になってしまう。
これはお互いにとって、とてももったいないことです。
愛情を言葉にして伝えることで夫婦関係がうまくいくケースも大いにあります。
しかし、今まで男性に「愛情を言葉にして伝えることは大事ですよ」と何度か伝えてみましたが、実際にチャレンジする方は稀なようです。
多くの方は「恥ずかしくて言えませんでした」「言っても『そんなこと思ってないでしょ!』と言われるのがオチです。拒否されると傷つくので言えません」とおっしゃって戻ってこられます。
素直な気持ちのやり取りというのは難しいものですね。
妻と上手くいくコミュニケーションの極意「共感」
そこで、相手を大切に思っていることを示すもう一つの言葉として提案したいのが「共感」です。
何に共感するかというと、妻の「怒り」とその背景にある「苦しみ」や「悲しさ」、「不満」への共感です。
「そうだよね、◯◯(妻)の立場に立ってみたら嫌だよね」「そうだよね、◯◯ちゃん(妻)にとって苦しいよね、辛いよね」「そうだよね、あなた(妻)に大変な思いをさせちゃってるよね」と、夫が妻の気持ちに意識を向けていると示すことが、重要かつ改善の最初の手がかりとなります。
例えば、あなたがいつも洗濯物を置きっぱなしにすることを怒られているとしましょう。(もちろん置きっぱなしにしないことが怒られない一番の方法ですが)
「いつも置きっぱなしにして!」と怒られたときに、妻の怒りに「共感」する返答としては、どのような返答が思い浮かびますか?
…例えばその答えは、「僕の行動が変わらないから、あなたは僕があなたの指摘を重要視していないと感じて嫌な気持ちになるよね。ごめんね」というのが、背景にある気持ちへの共感です。
仕事が忙しく、妻と一緒に過ごす時間がとれなかったり、十分なコミュニケーションが取れないことに怒っているときはどうでしょう。
「寂しい思い、悲しい思いをさせてしまってるよね。辛い思いをさせているよね。」というのが共感です。
難しいですか?
でもこの難しさや一手間こそが、相手への尊重や関心を示すのです。
「相手の立場に立ってみたら…」と考えてみる一手間を加えることこそが、「あなたのことを考えているよ」というメッセージが伝わるコミュニケーションの極意です。
カウンセラーは、この共感を徹底的にトレーニングするのですが、それでも簡単ではないくらい奥が深いので、難しいと感じるのも無理はないと思います。
また、自分自身があまり共感されたことがない人は、他者に共感することに難しさを感じることもあります。
難しいな、と感じるときは、自分自身が共感してもらうという体験をしてみるのも第一歩でしょう。
おわりに
「次からは◯◯するね」と改善策を示し、その通りに行動することもとても重要なのですが、そもそもなぜ妻が怒っているか…つまりは「あなたのことを重要視しているよ」ということが伝わらないと、妻の怒りはとけません。
上手くいかないときは、カウンセリングやカップルカウンセリングがサポートになります。
ご自身に合った方法を見つけていきましょう。

EASE Mental Management 代表、働く人と企業のメンタルヘルスケアとカウンセリングが専門の 公認心理師 / 臨床心理士。精神科・心療内科クリニック、EAP(働く人のメンタルヘルス支援)企業、株式会社ディー・エヌ・エー 専属カウンセラーを経て開業(カウンセラー歴19年)。