そのつらさ、本当に自己責任?

先日、はじめてお会いした方に、私が心理職であると自己紹介すると、「うつ病などのメンタル疾患になる人は、『自分がいけないから…』とか『自分のせいで…』って考える人が多くないですか? そう考えることでうつ病になるのでしょうか?」と聞かれました。
私の答えは、「『自分がいけないから』『自分のせいで』と繰り返し考えると落ち込みますよね。だから、どう考えるかということは1つの要因ではあるものの、それがすべてではないですよ。」と答えました。
それってどういうことでしょう?

医療や心理、福祉の業界では、その人の状態をみるときに、「生物心理社会モデル」という考え方を使います。

たとえば、10年勤めた部署から異動になり、そのタイミングで引っ越しし、新しい家族も誕生して生活が大きく変わったが、同じタイミングで大切な人が亡くなってしまい、いつのまに気力が湧かず、うつになってしまった、という場合を例にとってみましょう。
異動、引っ越し、新しい家族の誕生、大切な人が亡くなる、というのはどれも『環境』の変化です。生物心理社会モデルでいうところの、『社会』の要因ですね。異動先の文化も違うかもしれませんし、どれも大きな環境の変化です。一般的に環境が変化した時には、ヒトは新しい環境・状況に慣れるために、たくさんのエネルギーをつかいます。上記の例ひとつひとつをとってみても、とてもエネルギーを使う出来事です(そして、慣れていたそれまでの自分の生活を喪失する、という悲しみも伴うかもしれません)。こういった環境の変化が、ストレス関連の病気と関係していることが、研究により示されているのです(Holmes&Rehe,1967など)。

からだの要因、生物学的要因とはどういうことでしょうか。
うつ病の発症率は、女性が男性にくらべて約2倍発症しやすく、これには女性ホルモンの働きが関わっていると考えられています。また、うつや不安に関係するセロトニン・トランスポーター遺伝子の型が人によって異なることや、同じ薬を飲んでも人によって薬の効き方が異なることなどを考えると、そのひとそれぞれが持つ『からだ』の特徴が、病気の発症や、もっと言ってしまうと考え方や行動のしかたにも影響を与える、ということはあるでしょう。これが、『生物』の要因です。

そして『こころ』の要因…つまり『心理』的な要素も、もちろん関わってくるでしょう。
上述したように、「自分が悪いんだ…」と自分を責め続けてしまうことは、落ち込んだ気分と関係します。
ポジティブな側面に目を向けることで、つらい気持ちが和らぎ、活力が湧いてくることもあるでしょう。それは事実です。

ただ、「自分の考え方の問題である」とか、「自分が○○できないのが悪い」と、自己責任論に落とし込んでしまうのはちょっと危険だと思いますし、それは事実ではないのではないかと思うのです。

わたしたちの『こころ』について語るとき、そこには必ず『からだ』や『環境』の要因も絡んできます。その反対もしかりで、からだや環境に、こころの要素が絡むこともあるでしょう。

つらいことが起こっているとき、つらい状態を経験したときに、自分の気持ちや考え方(つまり『こころ』)が変わることで状況が変わることもあります。でも、それが全てだと思ってしまうと危険です。
わたしたちのこころは『環境』からも『からだ』からも影響を受けます。トータルでとらえてみて、バランスよく自分に何が起こっているのかを把握した方が、より適切で、柔軟な対処法が見つかるのではないかな、と思います。

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